経営の相談を受けていると、「どうすればいいと思いますか」と聞かれることがよくあります。ところが、話を伺っているうちに、社長ご自身がすでに答えの当たりをつけていることが少なくありません。迷っているのは、答えがないからではなく、その答えを声に出して、誰かと突き合わせる相手がいないからです。
そういうとき、私が提供しているのは「正解」ではなく、考えを整理するための壁打ちです。この記事では、なぜ社長に壁打ち相手が必要なのか、そして良い壁打ち相手とはどういう存在かを、私なりの考えとして書いてみます。
答えより、「考えを外に出す相手」が要る
頭の中だけで考えていると、同じ思考がぐるぐると回って、判断がつかなくなります。人に話すと、自分が何を迷っているのかが言葉になり、論点が整理されます。答えそのものより、この「整理される過程」に価値があるのです。
実際、壁打ちの途中で「あ、自分はもう決めているな」と社長ご自身が気づく場面は多いものです。私が新しい答えを授けたわけではありません。声に出して、問い返されただけで、もともと持っていた判断がはっきりしただけです。
なぜ社内では壁打ちしにくいのか
「それなら社内でやればいい」と思われるかもしれません。ですが、社内の相手には、たいてい利害や立場が絡みます。
- 部下は、社長の意向を先読みして本音を言いにくい
- 役員は、自分の担当領域や評価がかかっていて中立になりにくい
- 家族や創業メンバーは、関係が近すぎてかえって反対しづらい
壁打ちに必要なのは、遠慮なく反対でき、かつその判断の結果に利害を持たない相手です。この条件は、社内だとかえって満たしにくいことが多いのです。
良い壁打ち相手の条件
私が考える、良い壁打ち相手の条件は3つです。
1. 利害がないこと。 その判断がどう転んでも、自分の損得が変わらない立場であること。だからこそ、忖度のない反応を返せます。賢さより、この中立性のほうが大事だと思っています。
2. 反対もできること。 同意するだけの相手では、壁打ちになりません。「その前提、本当にそうですか」と問い返せることが、考えを鍛えます。
3. 判断を本人に返すこと。 壁打ち相手が答えを決めてしまっては、意味がありません。論点を整理したうえで、最後の決定は必ず社長本人に返す。決めるのは、結果に責任を負う人であるべきだからです。
「答えを出すコンサル」と「壁打ちになるコンサル」
コンサルティングというと、分厚い分析と「こうすべきです」という結論を出すもの、というイメージがあるかもしれません。もちろん、専門知識で明確な答えを出すべき場面もあります。
けれども、経営の重要な判断ほど、外部の人間が「正解」を出せるものではありません。その事業の肌感覚も、社内の空気も、最後に責任を負う覚悟も、社長本人にしかないからです。だから私は、答えを渡すより、社長が自分の答えにたどり着くための壁打ち相手であろうとしています。
だから、経営顧問は「先生」ではなく「壁打ち相手」
私たちが経営顧問という関わり方を「先生」ではなく「壁打ち相手」と表現しているのは、こうした理由からです。教える立場から一方的に指導するのではなく、対等な目線で、社長の考えを一緒に鍛える。少人数だからこそ、代表である私が直接、その相手になれると考えています。
もし今、経営の判断を一人で抱えていて、遠慮なく壁打ちできる相手がいないと感じているなら——金額や肩書きより先に、「利害なく反対してくれる相手が、自分にはいるか」を一度考えてみてください。それがいない状態こそ、私はいちばんのリスクだと思っています。