新規事業に関するコンサル系の記事を見ると、「中小企業白書(2022年版)によれば、新規事業の黒字化率はわずか7.4%」という数字がよく引用されています(※1)。92.6%が黒字化に至らないという、かなりインパクトのある数字です。

この数字が繰り返し引用され続けている背景には、「新規事業の多くは計画通りに黒字化しない」という感覚が、支援の現場でも広く共有されているという事実があります。正確な割合が7.4%かどうかはさておき、大半の新規事業がうまくいかない前提で、始める前に何を決めておくべきかを考えることには、十分な意味があります。

「新規事業 アイデア」「新規事業 進め方」で検索すると、アイデアの出し方や市場調査のフレームワークを解説する記事がたくさん出てきます。どれも役に立ちますが、実際に中小企業の新規事業に携わってきた立場から言うと、多くの会社がつまずくのは、アイデアが良いか悪いかではありません。

大企業には新規事業開発の専門部署があり、既存事業から切り離された予算と人員で新規事業を進められます。アイデア出しのフレームワーク解説の多くは、暗黙のうちにその前提で書かれています。一方、従業員数十人〜百数十人規模の中小企業では、社長や幹部が既存事業と兼務しながら、片手間で新規事業に向き合わざるを得ないケースがほとんどです。

大企業(新規事業開発部門あり) 専任チームがいない中小企業
誰が進めるか 専任メンバーのチーム 社長本人、または兼務の幹部
使えるリソース 別枠の予算・人員が最初から確保されている 既存事業のリソースを間借りする
撤退の判断 稟議・審査プロセスが最初から決まっている 何となく始めて、何となく続いてしまう
失敗時の扱い 会社全体としては織り込み済み 既存事業の業績に紛れて見えにくくなる

この違いを踏まえずに、大企業向けの「新規事業の進め方」をそのまま中小企業に当てはめようとすると、アイデアは出たものの、いつの間にか誰も本気で進めていない、という状態に陥りがちです。フレームワークの前に、専任チームがいない会社ならではの「決めごと」を先に済ませておく必要があります。

決めごと1:誰が最終的な意思決定者か、最初から一人に絞る

新規事業は、既存事業と違って正解のない判断の連続です。「社長」「新規事業担当の幹部」「関係者全員の合議」のように意思決定者が曖昧なまま進めると、判断が必要な場面のたびに時間がかかり、機を逃します。

例えば、従業員40名の卸売業で、新規事業の検討を専務に任せたものの、最終的な予算判断は社長が握ったままだったため、専務が現場で決められることがほとんどなく、意思決定のたびに社長の都合を待つ状態が続いた、というのはよくあるパターンです。逆に、「この事業については専務が決める。社長は月1回の報告だけを受ける」と役割を最初に切り分けた会社は、判断のスピードが明らかに違います。

チェックリスト

  • 新規事業について、誰が最終的な決定権を持つか、名前まで決まっているか
  • その人が既存事業の業務との時間配分を確保できているか
  • 「相談は受けるが決定はしない人」と「決定する人」が分かれているか

決めごと2:いつ・何を見て撤退するかを、始める前に決める

新規事業が失速する典型的な理由は、アイデアが悪かったからではなく、撤退の基準を決めないまま始めてしまうことです。売上や利益の目標だけを決めて走り出すと、目標未達が続いても「もう少し続ければ」とサンクコストに引きずられ、判断が先延ばしになります。

例えば、「初年度売上◯◯円、未達なら継続を見直す」という基準だけでなく、「投資した時間・費用の上限」もあらかじめ決めておくと、感情的な判断を避けやすくなります。撤退基準は、事業が順調なときではなく、始める前の冷静なタイミングでしか決められません。

チェックリスト

  • 何を見て継続・撤退を判断するか、数値と期限が決まっているか
  • 投資できる時間・費用の上限を、始める前に決めているか
  • 撤退基準を、社長以外の関係者とも共有しているか

決めごと3:既存事業からどこまでリソースを引っ張るか、期限付きで決める

専任チームがいない中小企業では、新規事業は必ず既存事業のリソースを間借りする形で始まります。ここで「余った時間でやる」という曖昧な合意のまま進めると、既存事業が忙しくなった途端に新規事業が後回しになり、そのまま自然消滅します。

一方で、既存事業を過度に圧迫すると、本業の顧客対応や品質に支障が出ます。「週◯時間まで」「◯ヶ月間は既存業務を◯割まで減らしてよい」というように、期限と上限を区切ってリソースを配分することが、両立させるための現実的な方法です。

チェックリスト

  • 新規事業にかけてよい時間・人員の上限が、期限付きで決まっているか
  • 既存事業側の担当者にも、リソースが割かれることが共有されているか
  • 期限が来たときに、続けるか・体制を見直すかを再検討する場が決まっているか

よくある質問

Q. 新規事業のアイデアが思いつかない場合、まず何をすべきですか。

アイデア出しの前に、自社が既存事業で培った強み(顧客基盤、技術、仕入れルートなど)を棚卸しすることをおすすめします。ゼロから真新しいアイデアを探すより、既存の強みを別の形で活かせないかを考える方が、専任チームがいない中小企業には現実的です。

Q. 新規事業は補助金を使って始めるべきですか。

使える補助金があれば活用すべきですが、補助金の申請要件に事業内容を合わせてしまうと、本来目指すべき事業の形がゆがむことがあります。まず自社にとって筋の良い新規事業かどうかを固めたうえで、使える補助金があれば申請する、という順序をおすすめします。補助金ありきでテーマを決めるのは避けた方がよいでしょう。

Q. 新規事業の判断は社長がすべきですか、他の人に任せてもよいですか。

必ずしも社長である必要はありませんが、「決めごと1」で触れた通り、決定権を持つ人を一人に絞ることが重要です。幹部に任せる場合は、社長がどこまで口を出すかも事前に決めておかないと、結局社長の判断待ちになってしまいます。

Q. 新規事業が軌道に乗るまでどのくらいかかりますか。

業種や事業内容によって大きく異なるため、一律の年数を示すのは誠実ではないと考えています。大事なのは年数そのものより、決めごと2で触れた撤退基準を事前に持っておくことです。基準があれば、軌道に乗るまでの時間が想定より長くかかっても、惰性で続けるのではなく、意図を持って継続するかどうかを判断できます。

コンサルタントに依頼を検討する目安

上記3つの決めごとを自社だけで固めるのが難しいと感じたら、それは外部に相談するタイミングのサインです。特に、意思決定者は決まっているものの新規事業の経験がまったくない場合や、社長一人が既存事業と新規事業の両方を抱えていて客観的な壁打ち相手がいない場合は、早めに相談した方が結果的に時間の節約になります。

3つの決めごと・まとめ

決めごと 固めておくこと
① 最終的な意思決定者を一人に絞る 決定権者の名前、時間配分、決定と相談の役割分担
② いつ・何を見て撤退するか 継続・撤退の数値基準と期限、投資できる時間・費用の上限
③ 既存事業からのリソース配分 時間・人員の上限、既存事業側との共有、見直しのタイミング

アイデアの出し方や市場調査のフレームワークは、検索すればいくらでも情報が出てきます。専任チームがいない中小企業に本当に必要なのは、それらを実行に移す前に、上記3つの決めごとを済ませておくことです。

私たちのような少人数のコンサルティング会社が中小企業の新規事業に伴走する意味があるとすれば、新規事業開発部門の代わりを、代表が直接、期間限定で引き受けられることだと考えています。

注記

※1 「新規事業の黒字化率はわずか7.4%」という数字について、正直にお伝えしておきます。私たちも中小企業庁の公式資料を確認しようと試みましたが、この数値を直接示す一次データにはたどり着けませんでした。複数の専門メディアが同じ数字を引用しているものの、出典の章や表番号を明記しているものは見当たりません。数字が独り歩きしている可能性があり、正確性を保証するものではないことを、お断りしておきます。

この記事の執筆者:株式会社シン

中期経営計画策定・新規事業開発支援・経営顧問を専門とする、少人数の経営コンサルティング会社。 野村総合研究所出身の代表を中心に、幅広い業界での支援実績があります。 会社概要・代表紹介 →