「中期経営計画 作り方」で検索すると、SWOT分析、PDCA、ミッション・ビジョン・バリューの整理といった、網羅的なフレームワークの解説がたくさん出てきます。どれも間違ってはいません。しかし実際に中小企業の中期経営計画に携わってきた立場から言うと、多くの会社がつまずくのは、そうしたフレームワークを埋める段階ではありません。

大企業には経営企画室があり、中期経営計画づくりを専任で担当する人がいます。フレームワーク解説の多くは、暗黙のうちにその前提で書かれています。一方、従業員数十人〜百数十人規模の中小企業では、社長自身がプレイングマネージャーを兼ねながら、片手間で中期経営計画に向き合わざるを得ないケースがほとんどです。

大企業(経営企画室あり) 専任担当がいない中小企業
誰が作業を進めるか 経営企画室の専任メンバー 社長本人、または兼務の幹部
かけられる時間 業務時間内に確保されている 本業の合間、夜間・休日になりがち
情報収集 部門ごとに分担して積み上げ 社長が一人で把握している範囲が中心
完成後の管理 定例で進捗確認する仕組みがある 放置すると誰も見なくなる

この違いを踏まえずに、大企業向けの「作り方」をそのまま中小企業に当てはめようとすると、途中で必ず失速します。フレームワークの前に、専任担当がいない会社ならではの「決めごと」を先に済ませておく必要があります。

決めごと1:誰が、いつまでに手を動かすか

大企業向けの解説記事は「経営理念を整理し、現状分析を行い……」と、あたかも作業を進める人が別にいるかのように書かれています。中小企業では、その「誰が」を最初に決めないと、フレームワークだけが手元に残って計画が進みません。

社長がすべて自分でやるのか、幹部の誰かに実務を振るのか、外部に一部委託するのか。ここを曖昧にしたまま「SWOT分析からやりましょう」と言われても、日常業務に追われてそのままフェードアウトしてしまいます。

例えば、従業員30名の製造業で、社長が「今期中に中期計画を作る」と決意しても、担当を決めないまま見切り発車すると、繁忙期に入った途端に手が止まる、というのはよくあるパターンです。逆に、月2回・1時間だけでも「社長と番頭格の1名」で定例の時間を確保できた会社は、多少荒くても最後まで作り切れています。

チェックリスト

  • 誰が中心になって手を動かすか、名前まで決まっているか
  • その人の通常業務との時間配分が決まっているか(「片手間」の範囲を具体的にしているか)
  • 外部の力を借りる部分と、社内でやる部分の線引きができているか

決めごと2:どこまでの精度で良しとするか

大企業の中期経営計画は、部門ごとの積み上げで精緻な数値をつくれます。専任担当がいない中小企業では、同じ精度を求めると時間がいくらあっても終わりません。

3年目以降の数値は「精緻な予測」ではなく「意思決定のための仮置き」で十分、と割り切ることが、専任担当がいない会社にとってはむしろ現実的です。完璧な計画より、まず1周まわせる計画の方が価値があります。

例えば、初年度は月次の実績と紐づけられる精度で作り込み、2〜3年目は「この方向で、このくらいの規模を目指す」という仮置きの数値にとどめておく、という濃淡のつけ方は、多くの中小企業で実際に機能しています。

チェックリスト

  • 初年度と2〜3年目とで、求める精度に差をつけてよいと合意できているか
  • 「仮置きの数値」であることを、社内外に説明できる状態か
  • 数値の細かさを巡る議論に時間を使いすぎていないか

決めごと3:作った後、誰が計画を見続けるか

中期経営計画が形骸化する最大の原因は、作った後に見る人がいなくなることです。専任の経営企画担当がいれば自然と進捗を追いますが、中小企業ではそもそも「作って終わり」になりやすい構造があります。

社長自身が定期的に見返すのか、月次会議の議題に組み込むのか。担当者を置けない前提で、それでも計画が「生きた状態」を保てる仕組みを、作る前から決めておく必要があります。

チェックリスト

  • 計画を見返すタイミングが、既存の会議体に組み込まれているか
  • 進捗が計画からずれたときに、誰が気づき、誰が判断するかが決まっているか
  • 「計画を変えてもよい」という前提が、社内で共有されているか

よくある質問

Q. 専任担当を1人雇ってから始めた方がよいのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。専任担当を先に雇っても、中期経営計画そのものの経験がなければ同じようにつまずきます。まずは上記3つの決めごとを社長自身で固めたうえで、必要な部分だけ外部の力を借りる方が、結果的に早く進むことが多いです。

Q. 中期経営計画は何年先まで作ればよいですか。

業種にもよりますが、3年が現実的です。5年先まで精緻に見通すのは、専任担当がいない会社には負荷が高すぎます。3年計画を毎年見直す「ローリング方式」の方が、少人数の体制には合っています。

Q. 顧問税理士に中期経営計画を頼むのと、経営コンサルタントに頼むのとでは何が違いますか。

顧問税理士は財務・税務の観点からのアドバイスが中心になることが多く、事業戦略そのもの(何に力を入れ、何をやめるか)への踏み込みは範囲外になりがちです。事業の方向性そのものを一緒に考えてほしい場合は、経営コンサルタントの方が適しています。

Q. 中期経営計画を作らずに経営を続けるのは問題でしょうか。

小さな会社であれば、計画がなくても社長の頭の中で経営判断が回っている限り、すぐに致命的な問題にはなりません。ただし、金融機関からの借入や採用を強化する局面では、社長以外の人にも将来像を説明する必要が出てきます。そのタイミングで慌てて作るより、余裕のあるうちに一度言語化しておく方が、結果的に負担は小さく済みます。

コンサルタントに依頼を検討する目安

上記3つの決めごとを自社だけで固めるのが難しいと感じたら、それは外部に相談するタイミングのサインです。特に「誰が手を動かすか」を決めても、その人に事業計画づくりの経験がまったくない場合や、社長一人ですべてを抱えていて客観的な壁打ち相手がいない場合は、早めに相談した方が結果的に時間の節約になります。

3つの決めごと・まとめ

決めごと 固めておくこと
① 誰が、いつまでに手を動かすか 担当者の名前、通常業務との時間配分、外部委託の範囲
② どこまでの精度で良しとするか 初年度と2〜3年目の精度の差、仮置き数値であることの社内合意
③ 作った後、誰が計画を見続けるか 見返すタイミング、ずれに気づく人・判断する人、変更の前提

SWOT分析やPDCAといった中期経営計画の「作り方」自体は、検索すればいくらでも情報が出てきます。専任担当がいない中小企業に本当に必要なのは、それらのフレームワークを埋める前に、上記3つの決めごとを済ませておくことです。

私たちのような少人数のコンサルティング会社が中小企業の中期経営計画に伴走する意味があるとすれば、経営企画室の代わりを、代表が直接、期間限定で引き受けられることだと考えています。

この記事の執筆者:株式会社シン

中期経営計画策定・新規事業開発支援・経営顧問を専門とする、少人数の経営コンサルティング会社。 野村総合研究所出身の代表を中心に、幅広い業界での支援実績があります。 会社概要・代表紹介 →